近づいて来る2人の様子を何気なく見ていると、

あっ…!!


心菜だ…。
否応にもドクンと胸が高鳴るのを感じる。

こちらの様子には目もくれず必死で医師に質問を繰り返し、指示を仰いでいる。

「お待たせしてすいません。診察室にどうぞ。」
辿り着いた医師の目線が俺を見た。
つられて心菜も俺に目線を流す。

ハッとして驚く顔をする心菜と目線が合う。

瞬間、2人の時間が止まったかのようにスローモーションになる。

「先生、頼みますよ。
次のスケジュールまで30分しか無いんです。
なんとかこの時間を空けて駆けつけてるので、巻でお願いします。」
マネージャーはそんな事など気付く事も無く、容赦無く医師にそう言う。

俺も急かされ立ち上がる。
心菜が、手を伸ばせば触れられるぐらい側にいる。触れたい衝動に駆られる。

駄目だ。
彼女の仕事の邪魔をする訳にはいかない。

心を抑えて彼女の前を通り過ぎる。

「渡瀬さん、バイタルが振り切れるようだったら直ぐ連絡して。」
医師からの指示で、心菜がハッと我に帰る。

「は、はい。分かりました、よろしくお願いします。」
一礼して、踵を返して来た道を小走りで去って行く。

俺は拳を握り締め、自分の思いをかき消すように診察室に入っていた。

診察を素早く終えて、これで次の検診は1ヶ月後…。

そう思うだけでやたらと気持ちが落ちていく。