記事には、噂や憶測だけで書かれた彼とは違う人物像が書かれていた。

『思い通りにならないと、マネージャーに物を投げたり傍若無人な振る舞いをして…』

書いてある記事は半分も本当では無い。
決してこんな横暴な人では無かった。

どちらかと言うと、物静かで自分の立場を静観して、なぜか世捨て人みたいなところがあって…。

心配になるほど他人に頼らない人だった。

言うなれば、誰にも関わらず孤独に生きてきたような…。

マネージャーさんとも距離を置いていたし、談笑している姿なんで一度も見ていない。

今頃どうしているのだろうか?

ちゃんとご飯食べてるのかな?

また寝るのも忘れて曲作りしてないかな?

部屋中、五線譜だらけにして足の踏み場も無い状況になってないかな。

たった3週間。
だけど…鮮明に忘れられない3週間。

彼の事を思うと、何故だか心がチクチク痛む。

救急外来の仕事に戻って一週間はバタバタと慌ただしく過ぎ、この慌ただしさが良かったと思った。

余計な事を考え無くて済むから。

ふとした瞬間に浮かんでは消える彼との思い出に、心が苦しくなって息が上手くできなくなった。

だから、その雑念を振り払うように仕事だけに没頭した。

1ヶ月経った頃。
やっと日常生活を取り戻し、息も上手に吸える様になった。
これでやっと、自分を取り戻せたと思った。

家に帰ってホッと息を吐くひと時、
ずっと、怖くて見れなかったテレビをつけて見ようと思い立つ。