誰にも言えない秘密の恋をしました       (この唄を君に捧ぐ)

「まぁ、これで社長も、中山家と縁を切る口実が出来たでしょう。」
そう言う龍二の声でパッと我に帰る。

「お前はどっちの味方なんだ?」
父がジロリと龍二を睨む。

「俺はどっちかと言うと蓮の味方です。
蓮には自分の思う道を、自由に生きて欲しいと願っています。」

龍二が父の前で堂々と言ってのける。

蓮は本当に龍二は父のスパイだと思っていたから、ここで本音が聞けた事にホッとした。

「龍二、君の事を本気で疑っていた。ただのお節介で今まで関わってくれてだんだな。ありがとう。」

龍二がニヤッと笑う。

「俺はお前の事、勝手に親友だと思っている。だからこれからも勝手に、北條蓮にしつこく絡んでいくつもりだからな。」

蓮がここに来て初めてフッと笑う。

いつだって近付いて来る同性は金目当てか、何かあやかりたい人間ばかりだったから、いつしか誰とも深く付き合う事をしなくなっていた。

友と呼べる人間が俺にいたんだと改めて思う。

その顔を見て父は内心驚く。

父の前ではいつも無表情で無機質な蓮が笑ったのだ。

洋子に見せてやりないな、と無意識に思う。洋子とは蓮の母親の事だ。

本当に自分の息子の事を何も知らないんだと改めて思う。

それもそうだ、仕事ばかりに明け暮れる毎日で、家族の事は顧みず生きてきた。

妻の事、息子の事、何も関心を持たずここまで来たが、歳をとったせいか最近、行く末に思いを寄せる時間が増えた。

そんな時に洋子の病を知る。

洋子とは政略結婚だったから、特に気にも止めず体裁だけを求め、あとは好きに生きてくれたら良いとさえ思っていたのだが…。

洋子が余命宣告をされた。

その事で気付いたのだ。
自分は何の為に身を粉にして働いてきたのかを…。

彼女が、自由気ままに生きられるように、金に困らない生活が出来るように、そう思うところが少なからずあったのだ。

彼女はかつて、美しく、高嶺の花のような存在だった。彼女の結婚は誰もが羨み、自分自身もステータスのように思っていた。

だから、彼女の地位を下げぬように欲しい物は全て買い与え、それで自分自身は満たされた気持ちなっていた。

ここに来て、彼女が居なくなるかもしれないと言う事実を知り、急に言いようのない不安と恐れを感じた。

彼女を失いたく無いのだ。
形ばかりの家族だったが、そこには確かに何かがあった。

情なのか、家族愛なのか…自分自身も分からない。