誰にも言えない秘密の恋をしました       (この唄を君に捧ぐ)

「で、やっと戻って来る気にでもなったのか?」
父は腕を組み蓮を見据えて話し出す。

「いえ、単刀直入にお話します。
貴方は、中山麻里奈さんに勝手に私の家に行く様に仕向け、私の最愛の人を傷つけた。
その事について抗議をする為に来ました。」

蓮は淡々と話しながらも明らかに、目ざしは鋭く、父をも貫くような強さを感じる。

「お前が、何処ぞの野良猫を飼い始めたと噂を聞いたから、許嫁がいる事を忘れてはならないと警告したまでだ。
それに、そろそろ反抗するのも大概にしろ。と忠告の意味もある。
抗うのはもう辞めて家に帰って来い。」
 
父の言葉には有無を言わさない威圧感があるが、今の蓮には通用しない。
いや、5年前だって、ただ従ってやってあげていただけに過ぎないのだ。

ただ、物分かりの良い息子を演じていただけにだ。

毅然とした態度で蓮は、
「申し訳ありませんが、私は中山麻里奈さんと結婚する気は毛頭ありませんし、家を継ぐ気もありません。
この気持ちは何があっても変わる事は無いと分かって頂きたい。」
と、父に言う。

「お前の最愛の人とやらは、手切れ金を受けっとたそうだ。目を覚ませ。
恋だの愛だの幻覚に過ぎない。」
父はそう忠告してくる。

「彼女はそうするしかなかったんです。
そう仕向けたのは貴方だ。」

蓮は心菜、信じている。
2人の間に確かに愛はあるのだと…。

「しかし、事実彼女はお前の前から去った。
違うか?」
父は、そんな愛とやらは信じていない。ただのおままごとの様な戯言だと思っている。

「彼女は私の事を思って身を引いたんです。私の家柄を知って身分違いだと…。
だけど、私は自分こそ彼女には相応しく無いと思っていた。
純真で綺麗な心の彼女に…計算高くて、ずる賢い自分を見抜かれるのが怖かったんです。だから、家の事を言えずにいたんです。」

蓮には珍しく感情を露わにしている。

父は珍しいものを見ていると内心思った。

子供の頃から感情が表に出ない子だった。そうさせたのは他でも無い自分だが…

それまでは、言いつけ通りに動く大人しく従順で、扱いやすい人間だと思っていた。

上に立つには物足りないが、それでもいずれ自分の手足として働くだろうと、疑う事がなかった。

その息子が5年前、突然家を出て行った。

気付いた時には、シンガーソングライターとして、世間にデビューするというから、何が起きたのか寝耳に水だったのだ。

時折、TVで観る息子は無機質で媚びる事なく、笑顔ひとつ見せないような愛想の無い人間だったが、不思議となぜか人を惹きつける魅了を醸し出していた。

ピアノをこんなにも上手く弾ける事、心に響く歌を作り歌う事、全てにおいて全く知らない顔を持っていた。

そして今、目の前の息子がまた知らない顔を見せている。ただ1人の女の為に心を露として、強い眼差しで訴えている。

自分がどれほど息子の事を知らないでいたか思い知らされる。