誰にも言えない秘密の恋をしました       (この唄を君に捧ぐ)

女将のお陰で父が来る頃には冷静を取り戻し、どうするべきかを明確に考える事が出来た。

父も母を失いたく無いのだ。

俺も心菜を失う訳にはいかない。

思いは同じだ。分かってもらえる。いや、分かってもらうまで伝えるしかない。
と、蓮は決意する。

足音が聞こえて来たかと思うと、女将の声で襖がスーッと開く。

「お待たせ致しました。お父様をお連れしました。」

家を出て以来初めて父と向き合う。

憮然とした態度で部屋に入って来た父は、一瞬俺に目を向け、机を挟んで向かい側に座る。

蓮は姿勢を正し頭を下げて、
「ご無沙汰しております。突然、尋ねた無礼をお許し下さい。」
と、静かに話す。

「龍二が真っ青な顔で来るから、何事かと思ったが…やっと頭を下げる気になったのか?」
父は顔色も変えず淡々と話す。

いつだって冷静沈着で、威厳があり近寄り難い父親だった。子供の頃から甘えた事なんて一度としてなかった。

それどころか、家で顔を合わす事さえ、あまり無かったと言っていいほど、仕事人間で蓮は勿論、母にも興味は無いのだと思っていた。

女将が父と俺にお茶を出し、何を話すでも無く頭を下げて去って行こうとする。

「女将さん、お気遣いありがとうございます。」
蓮は敬意を込めて女将に頭を下げ礼を伝える。
女将はにこりと笑みを浮かべて、綺麗な所作で頭を下げて部屋を後にした。