すき焼きの材料を一通り買い終わり、エコバッグをパンパンにして、真新しい自転車に乗って家路に急ぐ。
この自転車は心菜の誕生日に蓮がプレゼントしてくれたものだ。

自転車置き場に自転車を置いて、マンションのオートロックを解除してロビーに入る。

そのタイミングで、
「貴方が、渡瀬心菜さん?」
急に背後から声をかけられて振り返る。

えっ?
170センチはあるだろうか?
スラっとした体型のモデル風の美人がそこに立っていた。

「はい…。あの、どちら様ですか?」
全く見覚えの無い顔に心菜は不思議そうに見上げる。

「なんだ…。蓮がご執着だって言うからどんな美人かと思ったけど、ちんちくりんのお子様じゃない。」

へっ!?
突然知らない美人から罵られ心菜は体が固まる。

唯一分かった事は蓮の知り合いだと言う事。

「えっと…蓮さんはまだ帰って無いと思いますが、何かご用でしょうか?
もし宜しかったらお伝えしておきます。」

仕事関係の知り合いだろうか?心菜は探り探り話しをする。

「私、中山麻里奈と申します。
蓮とは子供の頃からの許嫁なの。そろそろお遊びはお終いにして、私に蓮を返してくれないかしら。」

どう言う事!?
蓮さんを返す?蓮さんの…許嫁…。

「…すいません。あの…お話しがよく分からない、のですが…。
蓮さんからその、聞いてなくて…。」

心菜は頭が真っ白で既に思考回路がショートしている。

「あら、可哀想に。
じゃあ、もしかして蓮の家の事も聞いてないのかしら。
彼、結構有名な建設会社の跡取り息子なの。今は抗ってお父様と敵対してるけど、一人っ子だからいずれは会社を継ぐ事なるわ。」

心菜は、一気にいろいろな情報が入って来て頭がクラクラする。

蓮さんが…跡取り息子?御曹司…。

ああ、だから…
満員電車が初めてだったり、コンビニが珍しかったりしたんだ。…と今、納得する。

そうか…
私にはやっぱり全然釣り合わない家柄の人だったんだと思い知る…。