誰にも言えない秘密の恋をしました       (この唄を君に捧ぐ)

「お待たせしてすいません。」
えっ…⁉︎
一瞬で兄と心菜がフリーズする。

蓮さん……。

今さっきまでステージに立って大観衆の面前で歓声を浴びていた、当の本人がまさかの目の前にいる。

わ、私よりもお兄ちゃん!

慌てて振り返ると、魂が抜けたみたいに目を見開いて固まっている。

「心菜、目が真っ赤…。」

その声にもう一度目線を蓮に戻す。

優しい微笑みを向けられて頭を優しくよしよしと撫ぜられると、不思議といつもの蓮さんだ。と、心菜はホッとしてしまう。

「挨拶が遅くなり申し訳ありません。
北條蓮と申します。お兄さん、ですよね?」

蓮が目線を兄に移し、フリーズしたままの兄に丁寧に挨拶をする。

「俺の事は…話して無い?…だよな。」
蓮は再度、心菜に目を向けて確認してくる。

ブンブンと首を縦に振る心菜を目を細めて微笑み、もう一度兄に目を向ける。

「初めまして。
心菜さんとは真剣にお付き合いをさせて頂いてます。
今日は忙しいところ観に来て頂きありがとうございました。」

怪訝な顔で固まっている兄を心菜は肘で突く。
兄はハッと今気付いたかのような顔で、

「えっ…と、渡瀬一心(いっしん)です。」

おもむろに、胸ポケットから名刺を差し出し連に渡す。

「ご丁寧にありがとうございます。すいません、名刺は持ち歩いて無くて…後ほどお渡しします。」

蓮が普通の会社員みたいにそう言うから、心菜は何だか不思議な感じがする。

蓮さんって名刺持ってるんだ…。

「イヤイヤイヤ、ちょっと待って下さいね。
心菜…お兄ちゃんはさっき確かに、チケットをくれた人の事は心菜が言えるようになるまで待つとは言ったけれども…

それよりも、もっと大切な報告があったんじゃないか!…付き合ってる?と聞こえたんだけど⁉︎」

兄は両手で心菜の肩に手を置いて向き合うかたちになる。

「えっと…その…なかなか、あの…言い出せなくて…。ごめんなさい。」

「お兄さん、ちょっと待って下さい。
心菜は何も悪く無いので、俺がギリギリまで今日会えるか分からなかったので、付き合ってる事を伝える了承は経て無かったものですから…。」

蓮が間に入って兄妹喧嘩を止める。

兄はまだ怪訝な顔をしているが、心菜の肩から手を外した。

「とりあえず、自宅まで送るから着いてきて。お兄さんも一緒にどうぞ、実家は下町だったよな?
あっ、腹減ってる?どこか食べに行く予定
だった?」

蓮が心菜に優しく話しかける。

「えっと…ラーメンでも食べて帰ろうって話してたんですけど。蓮さんお疲れでしょ?
電車で帰るので大丈夫ですよ。」
慌てて心菜はそう言う。

「俺も腹減った、ラーメンいいね。
もう少しお兄さんとも話しがしたいんだ。明日は1日オフだし問題無い。それに今から電車じゃ何時に帰れるか分からないぞ?」

確かに…心菜は窓の外を観て、まだまだ人の列は途切れていない事を確認して兄を見る。

「送ってもらう…?お兄ちゃんは明日仕事でしょ?」

「ああ…俺も北條さんと話しがしたい。まだ、心菜との事認めて無いからな。」
怒り口調で心菜にそう言って、

「お願いします。」
と、蓮に頭を下げる。