「ごめんなさい。泣いてしまって…先生も帰るところだったんですよね?引き留めてしまいましたね。」
先生だって誰より疲れているはずなのに…
着替えもせずに私を探しにきてくれたんだ。そう思うと貴重な時間を、潰されてしまったと焦った。
「ここちゃんが1人で泣いていたらいけないと思って探してたんだ。見つかって良かった。
これ聴いてみて、良かったら貸すよ。」
不意に先生からMP3を渡された。
イヤフォンを耳にあて聴いてみる。
これ…蓮さんの声だ…でも聴いた事無い歌…。
そう思い、先生に目を向ける。
「この歌、俺が医者になりたての頃よく聴いてたんだ。北條蓮の『tomorrow』って言うんだけど知らない?」
私は首を横に振る。蓮さんのアルバムは全て聴いたはずだけど…この曲は聴いたことが無い。
「デビュー曲なんだけど、凄くその頃の俺に刺さったんだ。きっと今のここちゃんにも響くはず。」
そう言って、山田先生は立ち上がる。
「北條蓮が運ばれて来た時は内心、心臓止まるかと思ったよ。大ファンだったからね。」
「まったくそんな風に見えませんでした…。」
私はそんな事にはまったく気付かなかった。
いつも通り冷静に対処していたから。
「北條蓮は噂通りの生簀がない奴だった?」
「いえ、週刊誌にはきっとワザとあんな風に撮らせたんです。とても思いやりのある優しい人でした。」
「そっか…良かった。
そうじゃなきゃ、こんな良い曲作れないよな。それ、貸すから休み明けに感想聞かせて。」
山田先生はそう言ってにこやかな笑顔を残して去って行った。



