風呂から出ると、キッチンから良い匂いが漂い途端に食欲が湧いてくる。

蓮が髪をタオルで乾かしながらキッチンに行くと、何品か既に出来ていて心菜の手際の良さに驚く。

本人は料理に夢中で、まだ蓮が戻った事に気付いていないようだから、しばらくドア付近に寄りかかり、心菜の事を見つめ続ける。

抱きしめたい衝動が湧き上がり、我慢出来ずに後ろからぎゅっと抱きしめてしまう。

心菜はビクッとして驚く。

「蓮さん!?
びっくりしました。いつから戻ってたんですか?」
動揺を隠す事無く、目を見開いて蓮を見上げる。

どこまで許されるだろうか。蓮の中で少しのいたずら心が芽生える。

チュッと可愛い耳にキスをして柔らかな耳たぶを食む。

「ちょ、ちょっと蓮さん…まだお料理中です。」
途端に真っ赤になって俯いてしまう。

どの仕草も可愛くて困らせてやりたいと思う悪戯心と、嫌われたく無い気持ちとが蓮の中で攻めぎ合う。

ここは嫌われたく無いという思いが強く、離れるべきだと判断して腕を緩めて解放する。

「心菜が料理に夢中で、気付いてくれないからいけないんだ。」
からかい半分でそう言って笑う。

「…向こうで待っていて下さい…。」

困り顔の心菜はそれでも、冷蔵庫からビールと炭酸水をどちらにしますか?と、差し出してくる。

「ありがとう。」
蓮は炭酸水を貰って、言いつけ通り大人しくソファへ足を運ぶ。

心菜と居られる時間は少ない。
出来れば側にいてひとときも離れたく無いけれど…。

TVを付け情報番組に目を向ける。
それでもどうしたって心菜が気になり、こっそりと覗き見る。

すると、蓮の曲が不意にTVから流れて来るから、心菜がパッと顔を上げTVに目を向ける。
それを見ていた蓮はフッと微笑む。