誰にも言えない秘密の恋をしました       (この唄を君に捧ぐ)

夕方も急患は少なく、ホッとしながら軽傷の怪我人の擦り傷に消毒をして、心菜の定時の時間がくる。

後は夜勤の看護師と引き継ぎをしたら終わりだ。
診察室の壁時計を見ながらそう思う。

5時はとっくに過ぎている。蓮さん、近くで待っててくれてるのかな?
そう思うと気ばかり急いでしまう。

引き継ぎを終えて、日報を書いて着替えたら慌ただしく足早に社員用出入口へ急ぐ。

蓮さんは何が本当は1番好きなのかな?

ホワイトシチューはあくまでもお兄ちゃんの好物だから、蓮さんが食べたい物を作ってあげたいと心菜は思う。

そんな事を考えながら、ロビーを通り玄関を抜け、病院前の広い道路に出る。

目立たない様にしてくださいね。と、念を押してあるから、きっと道を挟んだ向こう側の喫茶店辺りで待ってるはず。

そう思いながらカバンからスマホを取り出し、足を止め電話をかけようとする。

そのタイミングで、

「ここちゃん!」
と、後ろから声をかけられる。

心菜が振り返ると、白衣姿のままの山田先生が足速に近づいて来るのが見える。

何か引き継ぎを忘れちゃったのだろうか?伝達事項があったかなぁと、慌てて記憶を辿っていると、

「良かったまだ帰って無くて…
これ、増田先生からの出張土産のお菓子。ここちゃん明日休みでしょ?きっと休み明けだと無くなっちゃうと思って。ここちゃん好きそうな、可愛い系だったから持って来たんだ。」

「えっ!わざわざありがとうございます。
わぁーわんちゃんの肉球みたいですね。
これ、おまんじゅうですか?」

白いもちもちに黒いぷにぷにがまるで犬の足跡みたいな大福だったから、犬好きな心菜の心をくすぐる。

「そうみたい。こし餡とクリームがあったから2つ共どうぞ。」

そう言って、山田先生がニコニコの笑顔で心菜の差し出した両手に一個ずつ乗せてくれた。
それから私の頭をポンポンとして、
「じゃあ、気をつけて帰ってね。」
と手を振って病院へ走って戻って行ってしまう。

山田先生、やっぱり良い人だなぁ。
その背中を見つめながら心菜は微笑む。

お医者さんにはいろいろタイプがあるけど、大半の先生は堅物タイプか嫌味なタイプが多いのに、山田先生はそういう先生特有の感じじゃなく、強いて言えば歌のお兄さんみたいに爽やかなタイプだった。

絶対、高山先輩とお似合いなのになぁと心菜は思う。