「ねぇ。ここちゃん、山田先生が、小児科に戻るって噂聞いた?」
「そうなんですか?
山田先生って小児科が専門なんですね。分かる気がします。」
山田先生は話しやすくて相談しやすい雰囲気のおおらかな人だから、小児科医と聞いてしっくりくる。
「山田先生、ここちゃんの事が気に入ってるみたいだよ?」
社員食堂で高山先輩と2人お蕎麦を啜っていたら、急に高山先輩が小声でそう囁いて来るからびっくりして、お蕎麦が変な所に入ってしまいそうになる。
ゴホゴホと咳き込みながら、
「えっ!?何を言ってるんですか?
…そんな訳無いですよ。」
慌てて否定する。
山田先生は誰にも優しくて、誰にでも対等に話してくれる。
気さくなお兄さんみたいな人だ。
こんな私の事なんて眼中にも無い筈なのに。
「だって、いっつも私にここちゃんの事いろいろ聞いてくるんだよ。自分で聞けば良いのにさ。
今朝も、スカートだったここちゃんをいち早く気付いたのは山田先生だよ。
今日って仕事終わりに何かあるの?ってわざわざ私に聞いて来たんだから!」
山田先生が?
スカートをあまり履かない私に原因があるのかも…と、少し思ってしまう。
「今日は…仕事終わりに、知り合いと会う約束があるだけです。…別にたいした用ではないので…。」
そう言いながらも目が泳いでしまう。
生まれてこの方嘘なんて付いた事がなかったから、どうしても不自然になってしまう。
嘘では無い。
蓮さんだって知り合いの1人だし、彼氏じゃ無いとは言ってない。
たいした用ではなくは無いけど…。
少し浮かれている自分にこっそり喝を入れる。
しっかりしなくっちゃ、バレたら蓮さんに迷惑がかかっちゃう。
そのタイミングでメールを受信したスマホが震える。
「最近、スマホもよく見てるし。昼休みに結構メール来るよね。」
高山先輩に指摘されて、ドキンと心臓が踊る。
「いえ…兄ですよ。
最近、忙しくて会えてないので…それで。」
目を泳がせながら、何とかそう言って切り抜ける。
ここでスマホを見たら終わりだから。そう思って今、スマホを見るのは諦める。
でも気になる。
この時間は蓮さん以外いない筈。
急ぎの用だったらどうしよう。
スマホを睨みながら、なんとか早く食べ終えようと、お蕎麦を一生懸命食べ進める。



