「そうか。じゃあ、これからは出来るだけ車に乗ってくれ。あんな人混みに1人で乗るなんて怖すぎる。」
「えっ?何でですか?」
「痴漢とかあるだろ。心菜は特に無防備だから狙われそうだ。」
心菜はまさかの指摘にびっくりする。
確かに学生の頃、何度か痴漢に会って泣かされたけど、この街に住んでいて、電車に乗らないなんて選択は無かったから。
「そんな…不便ですよ。」
「タクシーに乗れば良いだろ。」
「勿体無いです…。」
心菜は蓮との価値観の違いを思い知らされる。今までどんな裕福な生活をしていたんだろう。
エレベーターが地下に到着して、心菜は手を引かれるままついて行く。
「乗って。」
助手席のドアを開けてくれる。
車にまったく無縁の心菜だって分かるくらいの高級車だ。
一瞬、怖気付いて躊躇するが背中を優しく押されて恐々乗り込む。
「失礼します…。」
うわ…緊張しちゃう。
車に慣れないうえに運転手は蓮本人なのだから…。
運転席に乗った蓮が面白そうに心菜を見る。
「何で、そんなにガチガチなんだ?」
「だって…兄の車ぐらいしか乗った事無いですし…それに、こんな高級車初めてです。」
心ここに在らずで、そわそわしてしまう。
「シートベルト…」
急に蓮が近付きビクッとしてしまう。
「あ…ありがとう、ございます…。」
去り際サラッと頬にキスされて、びっくりして固まる。
そんな心菜を見て蓮は楽しそうだ。
「いちいち可愛くて困るな。」
はい!?
何を言っちゃってるんですか?
ハハっと笑う蓮とは逆に、心菜は固まったまま動けなくなる。
車が音もなくスーッと動き出す。



