心菜は息の仕方も分からなくて…
もう一杯一杯で、手の置き場さえどうしたら良いか分からない。
「ごめん…やり過ぎた。」
蓮がそう言って、心菜を抱き上げソファに座らせる。
キスのおかげで涙は止まったが…。
余韻で頭がぼぉーっとする。
蓮はまたピアノの前に座り曲を作り始める。
その優しいピアノの旋律は心菜の心はフラットに戻してくれる。
どうしようもなくこの人が好き。
ピアノを弾く後ろ姿を眺めながらそう思う。溢れ出してしまった思いは止める事が出来なくて、でも、これ以上好きになっては駄目だと頭の中で警告音がなる。
「蓮さん…私、帰ります。」
心菜はおもむろに立ち上がり玄関に向かう。
「送って行く。」
作曲に夢中なのかと思った蓮だが、心菜の動きを素早く察知して、車のキーを握り足速に心菜に近付いて来る。
「大丈夫です。
お仕事の邪魔したくないんです。」
心菜はそう言うのに、
「フラフラしてて心配なんだ。
大人しく送らせてくれ。」
蓮の心配そうな顔に根負けして、こくんと頷く。
心菜の手を取りエレベーターに乗る。
中はガラス張りで景色が良く見える。
そして心菜は気付く。
このマンションがテレビ局の結構近くだと…。
「蓮さん?
ここってテレビ局から…近いですよね?
わざわざ電車に乗らなくても、蓮さんの家の方が近いじゃないですか。それに、コンシェルジュさんがいるなら鍵……無くても入れましたよね?」
「まぁな。でも、せっかく心菜が誘ってくれたんだ。断るなんて事出来ないだろ。
…電車乗りたかったし。」
電車乗りたかった…?
子供みたいな事を言う蓮に思わず吹き出してしまう。
「そんなに、電車が好きなんですか?」
「いや、乗った事があまり無かったから。」
蓮は外に目を向けながら素っ気なくそう言う。
「私は実家が下町なので…祖父も車を持って無かったし、電車かバスが当たり前でした。だから、逆に車に乗る事って少ないんです。」



