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 朝起きると、そこはグランツ様の執務室だった。昨夜はあのまま泣き疲れて眠ってしまったらしい。瞼をこすりながら状況を確認し、リリアーヌは息を飲み込んだ。それというのもリリアーヌはグランツに抱きしめられた状態で、ソファーに横になっていたからだ。

 朝の光を浴びた赤い髪が、精悍な顔を彩るかのように、ゆらゆらと炎のように揺らめいている。

 すてき……。

 グランツ様が寝ていることを良いことに、リリアーヌはその顔を堪能した。昨日あんな風に感情を露わにしても、その包容力で包み込んでくれる。

「…………」

 そう言えば私は昨日何をした?

 感情のままに、自分の思いをグランツ様にぶつけて……それからローズ様に嫉妬して声を荒げた。

 何てことをしてしまったんだ。

 昨日の自分の醜態を思い出し、リリアーヌは顔を覆った。

 モゾモゾと動くリリアーヌせいで起きてしまったグランツ様が、金色の瞳をこちらに向けてきた。鋭くも優しい瞳にリリアーヌが映し出されたその瞬間、グランツ様の瞳が細められた。

「リリアーヌ、おはよう。目が腫れているな……すまない。沢山泣かせてしまった」

 そう言いながらグランツ様が私の目元に触れ、ゆっくりとその場所に唇を押し当ててきた。

 えっ……。

 何……?

 何が起こっているのか分からず固まっていると、グランツ様が立ち上がり、フッと笑った。

「リリアーヌ、私はこれから王太子殿下と早急に謁見しなければならない。この部屋のシャワー室を使って構わないから、身支度を調えておきなさい」

「あっ……はい。分かりました」

 慌てて返事をすると、グランツ様が大きな手を私の頭にのせ、ポンポンと叩いた。グランツ様が自分に触れてくれることが嬉しくて微笑むと、それに気づいたグランツ様も、フッと笑った。その笑みがとても甘くて、勘違いしそうになる。

「では行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」