リリアーヌを驚かせないよう、ゆっくりと部屋の中に入ったグランツは部屋の様子を窺う。リリアーヌが来る前は簡素だった部屋が、今は白と青を基調としたシンプルでいて清楚で清潔感のある部屋へと変わっていた。
そうさせたのはグランツ本人だった。
リリアーヌが青や水色を好んでいると情報を得たグランツが、このように模様替えをさせた。
そんな部屋の隅で、怯えたようにリリアーヌは立っていた。
可哀想に……あんな隅で震えながらずっと待っていたのか。
グランツはゆっくりとリリアーヌに近づくと、怖がらせないよう微笑みを浮かべようと努力する。そんな俺の前でリリアーヌは胸の前で両手を組み、こちらをジッと見つめていた。ランプの明かりの中で、蜂蜜色の髪とペリドットの瞳が照らし出されている。
夜着一枚のリリアーヌは目の毒だった。邪な思いが脳をよぎるが、それに蓋をする。
先ほど神に誓いを立てたばかりだろうが。
俺はリリアーヌを安心させるため、髪にそっと触れた。
ペリドットの瞳に俺が映し出される。そっと頬に触れると、柔らかく滑らかな手触りに心臓がいつもより早く鼓動し始めた。そんな俺の行動に憂虞しているのか、リリアーヌは顔を赤く染めながらプルプルと震えていた。
可愛らしい……。
まるで怯える小動物のようだな。
こんなに可愛らしい妻を娶ることが出来て、騎士団の連中に羨ましがられることだろう。
結婚式も終わり、今夜は初夜だ。しかし、俺はリリアーヌから離れた。
「今日は疲れただろう。ゆっくり休みなさい」
「えっ……」
驚く声が聞こえてくるが、俺はすぐに踵を返し部屋から出た。このままここにいれば、リリアーヌの可愛らしさに手を出しかねないからだ。
彼女を傷付けてはいけない。
これ幸いと彼女がこの屋敷から逃げ出したとしても、俺は何も言う気は無いし、咎めもしない。
そうされて当然の男。
俺は人殺しだ。
戦争といえど、何人もの人間をこの手で殺めてきた。俺の剣によって死を迎えてしまった人々にも家族が、思い人が、愛しい人がいたはずだ。
そんな人々の命を俺はこの手で……。
こんな野蛮で、汚い手では彼女に触れることは出来ない。


