ルーレンス王国……そこは緑豊かな自然と実りに溢れていた。水源には大きな湖があり、魚や穀物その他には鉱山までもが国の辺境に位置した場所にあり、鉱山資源も豊富にある。ほぼ全の物資が国内でまかなえるほど豊かな国、それがルーレンス王国だ。そんな国にも悩みはある。それはルーレンス王国が他国に囲まれていると言うこと……。北はガルレシア王国、南はアルファオ王国に……。その二カ国に囲まれていることがルーレンス王国の悩みの一つとなっている。二カ国はルーレンス王国の豊かな資源に目を付け、領土を狙い戦争を引き起こす。先鋭化した国同士により常に争いが起こり、国民は怯えながら生活する日々が続いていた。

 そんな争いが繰り広げられている南方ソレス領で、アルファオ王国の敵騎士に向かって大剣を振るう男がいた。男は大きな体躯に炎のように燃える赤い髪と、鋭く光る金色の瞳を持つ騎士グランツ・サライヤスだった。地獄と化した戦場で剣が人を切り裂き、地面が血で濡れ赤く染まる。そして自身の体も赤く染めていく。全ての者を排除し駆除しようとするかの様に剣を振るう姿は、勇者や英雄というより鬼神そのもののようだった。その姿に見方さえも背筋を震え上がらせた。

 その頃、北方シモレンツ辺境伯領ではガルレシ王国から一万の兵士が送り込まれ、そこもまた戦場と化していた。そんな地獄のような戦場で誰よりも前に立ち剣を振るうのは、美しい蜂蜜色の髪を一つにまとめ、後ろに流した少女だった。グランツと同じく全身を血に染め、自身の前に立ちはだかる敵に向かって剣を振り下ろす。その姿もまた鬼神そのものだった。彼女はそんな戦場にて、青い服を血で染めながら美しく舞うように剣を振るい続け、血の滴り落ちるその場所で不敵に笑った。

「さあ、一緒に踊ろうか死の輪舞曲(ロンド)

 少女がクルリと舞うたびに血が花びらのように飛び散る。

 それを目にした敵兵が震える口で呟いた。

 『鮮血姫』と……。

 その戦場で彼女は敵一万、辺境の兵士三千人の中で勝利を納めた。


 自身の命と引き換えに……。