ただ、目はまったく笑っていない。

「なあ、ロベール。うちのかわいいリティを、どうするって?」

「だから、殿下の妃候補に推薦したと言ったんだ」

 その瞬間、マルセルの身体が怒りにふくれあがる。

 ロベールが震えずに彼を見据えていられているのが信じられないほどだったが、そこに扉をノックする音が響いた。

「失礼します」

 やわらかくも芯のあるはっきりした声が聞こえたかと思うと、 ほとんど蹴破る勢いで部屋の扉が開かれる。

「父さん! ロベールさんを困らせてるって聞いたわよ!」

 入ってきたのは、蒼氷色の髪を背中の半ばまでなびかせた少女だった。