そんな父がこの世を去る先月までは、まさか自分がこんな田舎町で暮らすことになるなんて思ってもみなかった。



「どうぞ」


「お、ありがとう彗ちゃん」



自己紹介の手間は省けて助かったが、馴れ馴れしく呼ばれることは気にくわない。

たとえ私が急須に注いでから5秒で淹れた、お湯8割のお茶を差し出したとしても気づかないケンチャン。


こんなの嫌がらせだよ。

嫌がらせという名の、私なりの挨拶。



「空気が美味しいし、景色は綺麗だし、夜は星も見える。いいとこだよ、ここは」


「……そう…ですね」



その目、だいっきらい。

腫れ物を扱うみたいな、その目。


どうせ聞いたんだろう。
私がお茶を用意しているあいだに。

お父さんの姉である伯母のもとに引き取られた、可哀想な女の子の話を。



「まあ確かに、都会で暮らす若者が好むような遊び場なんてものは…ないかもしれんがね。ああでも、コンビニなら徒歩20分の場所にあるから」