ホント、良い人だ…司先輩。
あたしがあそこでうずくまってた理由聞かないでくれて、それで、あたしが言いたくないの気にしてくれた。
単純にそうしてくれたことが嬉しかった。
また、会えたら話したいなぁ…お礼もしたいし。
ってのんびり考えてる場合じゃない!!
急ぎ足で体育館に駆け込んだ。
「ちょ、お前、新入生だよな?」
眼鏡をかけた先生に声をかけられる。
「は、はい」
「今までどこに行ってたんだ!?」
「あ、えと、旧校舎で迷ってしまって…」
「は!?」
わけがわからないとでも言いたそうに眉間にシワを寄せた先生。
「えと、その一緒にいた友達とはぐれてしまって、間違えて旧校舎に迷い込んじゃったんです…」
「それで?」
「旧校舎にいた先輩に会って、ここまで案内してもらいました!」
「そうか…
それにしても、今まで新入生が旧校舎で迷うなんて無かったのに…」
眉間をおさえた先生。
うっ、すみません。
「もう、いい。
自分のクラスの場所に行きなさい。君は何組だ?」
「1組です。」
それならあそこだと教えてもらい、
自分のクラスの席に向かう。
目立つよね…
キョロキョロと席を見渡して、自分の座る席を探す。
「おーい、ここだよ。」
小声で声をかけられて、こえがした方に振り向くと、席に座りながらブンブンと手を振っている優衣と音がいた。
そこか!
あたしはできるだけ目立たないようにコッソリ移動して、自分の席に着いた。
「「美琴?」」
そう2人に呼ばれて恐る恐る「は、はい!」と返事を返す。もちろん小声でだけど。
「どこに行ってたのか、教えてもらおうか?」
ひ、ひぃー!!
ニッコリと笑った優衣。でも、目が笑ってない。
「し、心配かけてごめんっ」
「そうだよ?今回はめっちゃくちゃ心配したんだからね?」
2人とも表情をこわばらせて怒っていた。
「すいません…」
2人の様子でどれだけ心配してくれたのか、
よくわかる。
「全く。それで?どこに行ってたの?」
優衣がそう聞いてくる。
音も「それは、あたしも気になってた…」と
つぶやいた。
「えーと、優衣たちとはぐれて、勘で動いてたらなぜか旧校舎に迷い込んじゃって…
それで、旧校舎にたまたまいた先輩に助けてもらってここまで来たの。」
あんまり司先輩のこととかは話さないようにしよう。
それ話したら、どこで会ったかとか聞かれるだろし…あたしがプールでうずくまってたこと知られちゃう危険性がある…
「ハァ?なんで、旧校舎に迷い込むのよ?」
「だから、勘で動いてたら…」
「勘で動くな。」
ビシッと音にデコピンされる。
痛い…
音は馬鹿力だ…
ジンジンする額を抑える。
「でも、その先輩に感謝ね。
旧校舎は本校舎とずっと離れてるから、1人で戻るなんて到底土地感覚がないとできないわ。」
「うん…」
優衣の言葉に素直に頷く。
あたしだけだったら、絶対無理だったから…
ホント感謝だ。司先輩には。
「で?」
「うん?何?」
何か聞きたそうな2人に首を傾げる
「何じゃないわ!
その先輩についてよっ。どんな人だったの?」
「え、そんなことが気になるの?」
「そんなことじゃないわよ!!」
いや、本当にそんな些細な事、気になる?
「はいはい。
とてもいい人だったよ。色々、気遣ってくれて…」
「ふーん…そうなんだ?」
何やらニヤニヤ笑う優衣。
え、何?
「その先輩に会ってみたいわー
美琴を助けてくれたお礼もしたいし。」
「うん、それはあたしも」
そう思ってる。
「あーやっと、美琴にも春が来たか〜」
「え、まさか…」
またまたニヤニヤ笑う優衣と顔が青ざめる音。
それにしても…いつにも増して優衣がテンション高いな。
「そのまさかよ〜。やっとだわ。」
「なんの話?」
「ん?ついに美琴にも恋する季節が来たって話。」
は?
恋?まさか司先輩にっ!?
「ち、違うよ!?本当にそうゆうことではなくてっ」
変な誤解を生んでそうなので、そう否定する。
「何が違うの?
美琴のさっきの先輩について話す顔、乙女の顔だったよ?」
うっ、そうだったの?
自分の顔なんてわかんないし…
「もう、違うからっ!!!!」
そう叫ぶと、「橘、うるさいぞ!」と担任の先生のカミナリが落ちたのでした…

ハァー先生に怒られた…
しかも、ミッチリ。
「ドンマイ〜」
そう言って肩を叩いた優衣。
元はと言えば…
ジトっと恨めしい視線を送ったけど
ニヒッと悪気の無さそうな笑みを返された。
もう…!
今更だけど、いまは教室へ移動中。
あー本当に恥ずかしかった。
さっきの先生に怒られたことが脳裏をよぎる。
全新入生の前でお説教を食らわされた…
まぁ、自分の責任なんだけど…
あーもう思い出しただけで、恥ずかしい。
これは黒歴史になりそう…
そんなことを思いながら、教室に向かう。
ここは敷地が広いから、体育館から一年の教室まで結構ある。
広いと言うのも困りもんだなぁ。
やっと教室に着いて、中に入る。
これから、この1年間ここで過ごすんだと思ったら、なんとなく実感が湧いた。
…あたしはもう高校生なんだって。
まぁ、入学初日に入学式に遅れるなんてヤバいんだけどね。
前に張り出された席替え表を見る。
ふむふむ。
あたしは窓際の一番後ろの席。
おお〜一番いい席だっ!!
音と優衣とはちょっと離れたけど、まぁいい機会かも。
新しく友達作りたいけど、2人と話してたら
話しかけるタイミングないし。
そう思って、自分の席に着く。
ふぅ。さっき寝たからか眠気は全くと言っていいほどない。
よしっ、友達作るチャンスだっ。
チラッ
あたしは隣の席に座っている子を見た。
え…。
あたしは思わず絶句した。
隣の席に座っていたのは、とてつもないイケメンだったから。
マジか…
もうこれは、芸能人の域だ…
でも、司先輩の方がカッコよく感じる。
なんでだろ?
っいうか、隣、男の子だったのか…
確認しとかないといけなかったなぁ。
まぁ、友達に男女の差別なんてないし。
そう思って、また彼の顔を眺める。
前を向いている横顔はなんというか。
美しさとそして…冷たさだった。
まるで、拒絶しているような迫力がある。
長いまつ毛。瑠璃色のキレイな瞳と髪。
髪質良さそ〜
制服も抜群に着こなしている。
着崩しているけど、そこまでチャラチャラしていないし、これはモテそうだな〜
他人事のように思った。
まぁ、別にイケメンに興味があるわけでもないし。
「あの。」
思い切って話しかけてみた。
「あ?」
彼はなんだか懐かしさのある声でそう言った。
あれ、無視されかと思ってたのに。
まぁ、めっちゃ低ーい声だけど。
「あたし、隣の席になった橘美琴です。
よろしくお願いします。」
初対面だし、男の子だから、敬語になってしまう。
「氷室凌。」
名前だけ言って、彼は黙り込んだ。
「そうなんだ。氷室くんね。これから色々迷惑かけるかもだけど、嫌だったら言ってね。」
それだけ伝えておく。
でも、氷室くんは何も言わない。
仲良くは…なれなさそうだな。
氷室くん、なんかあたしを拒絶してる感じがするし。
そう思っていると
「って、は?」
氷室くんが困惑したような表情で呟いた。
「は?今、橘美琴って言った?」
「えっ、あ、はい。」
それが何か?
あたしは思わず首を傾げた。
「もしかして、美琴?」
「は?」
え、なんで、急に名前呼び?
っていうか、あたしのこと知ってる?
「え?もしかしてあたしのこと知ってるんですか?」
「あぁ」
「美琴は覚えてない?俺のこと」
「あの、ごめんなさい。覚えてなくて。」
「そっか。」
な、なんだか申し訳ない。
彼は少しショックを受けてるみたいだった。
っていうか、なんかさっきと雰囲気ちがうような気がする。
さっきはちょっと近づきにくい雰囲気があったのに、今はなんか耳を垂らした犬みたい…
って失礼だ!
「俺はお前の幼なじみで、中学までずっと一緒に過ごしたんだ。凌くんってよく美琴は呼んでたんだけど、ホントに覚えてない?」
幼なじみ?彼が?
彼の言葉に耳を疑う。
っていうか、凌くんって…
ーーーーーー「凌くんっ」
子供の頃、そう幼なじみの男の子を呼んでいた。
その男の子と一緒にいると、楽しくていつも一緒にいたっけな…
小学校も一緒で、家が隣だったから行きも帰りも一緒で、よくお互い野家に行ききしてた。
でも、凌くんは親の仕事の都合で引っ越さなくなくちゃいけなくなって、中学に入ってからは一切関係がなくなったんだよね…
あの時は、結構寂しかったな。
凌くんとは、もう兄妹同然だと思ってたから…
その凌くんは、
今、目の前にいる彼みたいに淡い
瑠璃色の髪をしていて、キレイな髪と同じ色の瞳で…

って、あれ?
その男の子と今の彼はすごく似ていた。
っていうか、瓜二つ…
ま、まさか。
「えー!?あの〝凌くん”!?」
「やっと思い出したか。」
にっと笑った凌くん。
「嘘」
「マジだよ。」
…信じられない。でも、やっぱりあの凌くんなんだ…
「やっぱそうだよね。信じられないけど、また会えて嬉しいよ!」
「まぁ、確かに。それにしても、名前聞かないとわからないくらい、成長したな。」
「ありがとっ!
でも、それをいうなら凌くんのほうだよ?
子供の頃より、もっとカッコよくなっててびっくりしたし。」
まぁ、凌くんは子供の頃から顔がカッコよくて、よくスカウトされたり、街中で歩いてると女の子がキャーキャー言われてたけどね。
子供だよ?まだ、小学生でもないのにだよ!?
信じられないよ。ホント。
「っ!!」
「え?大丈夫?凌くん。」
急に顔を赤くした凌くん。
風邪?いや、さっきは元気そうだったし、違うか。
ん?じゃあ、なんだろ?
「それは俺が言いたいつーの」
小声でそうこぼした彼。
「ん?」
「いや、なんもない」

まぁいっか
でも、とりあえず凌くんと会えてよかったなぁ
知り合いが隣の席って結構心強いし。
「何年振りだ?」
「えーっと、10年振りかな?」
「そう考えると、こうして会えたの偶然だとも思えないな」
「もう運命だよね〜」
「まぁ、そうか?」
ちょっとほっぺを赤く染めた凌くん。
あれ?照れてる?
「頬が赤いですよ?凌さん?」
ちょっとからかってみた。
なんか凌くんがかわいくて。
「へぇ、俺を揶揄うなんていい度胸じゃん。」
「とか言って何もしないくせに〜」
ふふっ、凌くんはこういうこと言うけど、
別に何もしてこないのだ。だから、あたしもこう言ってからかうんだけどね。
「美琴のくせに生意気。」
むにゅ、鼻をつままれた。
「うぇ?」
「ふっ、そのマヌケな顔見れたから、許してやろう。」
「なんだか上から目線…」
「まぁな」
楽しそうに笑った凌くん。
相変わらず、意地悪だ。
まぁ、たまに優しいんだけどね。
よくいうツンデレってヤツかな?
なんだか、昔に戻ったみたいだな。
そう思った時、
「お前ら〜」
背後からドスの効いた声がする。
ひっ
恐る恐る後ろに視線をやる。
「せっ、先生?」
そこには、殺気に満ちたオーラをまとった担任の先生がいた。
「よほど、俺の話がどうでもいいみたいだな?
よし、わかった。たっぷりと俺のありがたーい
お話を聞かせてあげよう。」
え…
それって、お説教じゃ…
っていうか、先生話してたんだ。
蚊帳の外だった…
「先生、言い訳と聞こえるかもしれませんが、
俺と橘は先生の話がどうでもいいってわけじゃないんです。
ただ、ちょっと久しぶりに幼なじみと会えて、
浮かれてたっていうか…
なっ?」
急に話を振られて
「うん」
と驚きながらも返事を返す。
「幼なじみ?橘と氷室が?」
「はい。」
「へぇ、そうなのか。
まぁ、それなら仕方ないな。」
そう言って先生はまた教壇の方へ戻って行った。
えっ今ので納得したんですか?
いや、まぁ納得してもらえてよかったんだけど。
また、先生のカミナリが落ちなくて良かったんだけどね?
いやはや、こんなすぐ先生がおれてくれるとは…
「いや〜よかったね〜」
小声でそう凌くんに声をかける。
「ん」
「まさか、あんなふうに先生を言いくるめちゃうなんて…」
ホントにすごい…尊敬に値するよ。
「おい、言い方あるだろ。」
「そんなこと言ったって事実じゃん。」
「忘れんなよ。お前、俺が助けなかったら、
今ごろ先生のお説教食らってたぞ。」
「り、凌くんだって怒られてたじゃん!」
「いや、フツーに俺だけなら大丈夫だったと思うぞ。ただ、お前がうるさかっただけだし。」
うっ
「な、何も言い返せないです…」
「ふっ、お前が俺を言い負かすなんて無理なんだよ。」
勝ちこほった顔をした凌くん。
くぅ。
あ、あれ?
なんだか、視線を前から感じる。
「ひっ」
先生が睨んでる。もう禍々しいほどに。
慌てて、先生の話に耳をすませたあたしなのでした…