「好きだよ。俺と付き合ってほしい」


そういって彼は腰を九十度に曲げる。こんなにきれいなお辞儀は見たことがない。


嬉しい。ずっと前から彼のことは好きだった。



でも、私の返事は彼の気持ちにも自分の気持ちにも反する。


「ありがとね。本当にうれしい。でも、ごめんなさい。あなたとお付き合いすることはできません。好きな人がいるので」

「、、、そっか。ごめんな、こんな断りにくい状況作っちゃったのに、言わせて。お前、優しい奴だから絶対気にすんだろ。でもな、俺はいいぜ。正直な気持ちが聞けたから。ありがとな」


そういうと彼は踵を返して教室に戻って行った。おそらく部活にでも行くのだろう。ちなみに野球部だ。




そして私は、誰もいないであろう、旧校舎東館の階段下に移動する。頭を整理したいときによく使う。


着いたとたん、自分でも焦るほど大粒の涙が頬を伝った。


「ごめん、ごめんね。本当にごめん。君のことを好きなのに嘘ついて断ってほんとにごめん」


嗚咽をもらしながら、彼に謝る。


どうってことない空気を作っていたけど、心の中では傷ついているときの話し方と雰囲気だった。





本当に悪いことをした。でも、私は彼に答えることができない。