花を手向けるということ。


 家の中に入り、中庭の見える廊下を真っ直ぐと進み、和室の前で正座をする。

「……ただいま戻りました」

 生け花をしていたのだろう。コト……と物音がし、静かにため息をつくのが聞こえてくる。

「そう。では、もう下がりなさい」
「……はい」

 母は冷たい声でそう言うと、生け花を再開した。
 夕日の影で分かる。きっと百合を用いた作品を作っているのだろう。母の作る生け花は玄関にいつも置かれている。

 もう、二年近く母親の顔を見ていない。この生け花だけが……母親の心情を知ることが出来る唯一の繋がりになっていた。

 ”あの事”が起こって、もう二年が経つのか……中庭を眺めながら、ふとそんなことを思い返していた。

 この家にはわたしの居場所はどこにもない。
 違う……この家だけではなく、この世界に……わたしの居場所はない。

 犯罪をおかした人でさえ……居場所があるのに……