そして、いつの間にか”早く、楢島さんの目の前から消えた方がいいんじゃないか”そんな考えが頭の中を巡るようになった。
「あ、あの……わた、し……帰ります」
若干吃りながらも、不自然なほど震える声で必死にそう伝えると、自分の荷物を手に取り立ち上がる。
「ちょっと、待ってください!」
慌てて立ち上がり、駆けだしたわたしに続いて部屋を出てきた楢島さんと玄関で目が合う。
「すみませんでした……失礼します……」
視線を下に向けるように逸らし、楢島さんの返答も待たずに建物を飛び出した。
それから無我夢中に坂を駆け下り、気付くと地面にへたりと座り込んでいた。
「はぁ……はっ……」
額からぽたぽたと地面に汗が落ちる。
逃げるように施設を出てきてしまったことにひどく後悔していた。
かと言って、あのまま楢島さんに失礼な質問をして、疎まれてしまうのが怖かった。
また、誰かに無意識のうちに嫌われてしまう。
そんなことになるのが……怖くてたまらない。
最初から、味方なんて一人もいないのに……
私は、人に嫌われるのが何よりも怖い。
