花を手向けるということ。


 筋肉質な逞しい腕がこちらに伸びてきて、スマホを受け取る。

「ありがとう」

 しっかりと視線を合わせて、彼はそう言った。
 冷淡で、怖い人だと思っていたけれど……ちゃんと目を見て”ありがとう”の言える、常識のある人……。

 そんなところに感心しながら、こくりと小さく頷くと、彼は階段を上って行った。
 わたしも立ち上がり、楢島さんのもとへと向かおうとする。


 ……あ、もう一人一緒に来てたのか。

 さっきの彼は、黒髪の男性が乗っていた自転車の後ろへと腰掛けた。
 そして、すぐに自転車は動き始め、段々とその後ろ姿は小さくなって消えていった。

 ここら辺に住んでる人、なのかな……。
 この間も会って、今日も会うなんて、まるで運命みたい。

 でも、どうして……彼の眼はあんなにも冷たいんだろう。

 私なんかが気にしても、どうにもならない。
 早くこの花束を渡して帰ろう。