花を手向けるということ。


 ……暑い。あれからどれだけの時間が経ったんだろう。スマホの時刻を確認すると、二時間が経過していた。

 本来ならこんなに時間を潰す予定なんてなかったし、着物のせいで体内の温度調節がうまくできない。

 ……天気のいいこんな暑い日は、尚更しっかり水分補給しないといけないはずなのに。

 クラクラと視界のぼやける中、そんな事を考えていると、キキィッ……と自転車のブレーキがかかる音が聞こえた。

 音に反応するかのようにパッと顔を見上げる。振り返る勇気はまだない。
 そして、次第に鼓動が早くなっていくのがわかる。

 だんだんと影がこちらへ近付いてきて、私の影と綺麗に重なる。
 恐る恐る振り返ると、その光景に思わず目を見開いた。


 そう、後ろに立っていたのは……
 ――あの時チューリップを拾ってくれた人だった。

「あれ、お前……」

 彼も私のことを覚えていたのか、少し驚いた表情を見せた。
 その後すぐに、落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見渡していた。


 ――あ……スマホ、か。

「あの……これ……」

 勇気をだしてそう切り出して、持っていたスマホを彼に差し出す。その手は分かりやすいほどに震えていた。

 だって、彼のあの日と変わらない”冷たい眼”を見るだけで……身体が内側から冷やされているような感覚に陥って……

 手も、声も、震えが止まらない。