花を手向けるということ。


『海岸? 今の景色写真撮って。それからトークの一番上の奴に送って』

 緊張で体は震え、額からは汗が流れ出ている。
 そんなこと知りもしない男性は、次から次へと要望を告げる。そもそも了承なんてしていないのに。頭がパンクしそう。

「分かりました……」

 こんな時いつも、断れない自分の性格が心底嫌になる。
 わたしは、言われるがままにスマホのカメラを起動して周りの景色を撮り、トークの一番上に表示されていた”八雲”さんへと写真を送った。

「送りました」
『ありがと。じゃ、そっち行くから』

 ブチ、という音と共に通話が切れた。
 
 ”そっち行く”ってことは……私もここにいなきゃいけない、ってことだよね。
 たしかに、楢島さんのとこに行きたくないとは思ってたけど……

 スマホで写真を撮ったことなんて、数える程しかなかったけど、こんなふうに綺麗に景色が撮れるものなんだ……。

 気付くと再びスマホを手に取り、カメラを起動していた。
 そして、わたしは膝の上に置いていた百合の花束にピントを合わせて……