花を手向けるということ。


「だけど、あんな優しい人の元で暮らせて羨ましい……」

 ふぅ、とため息をついてそう呟く。
 そして机棚にある日記を手に取り、今日のページを開く。

 ”今日はクラスメイトのお誕生日だった。”
 ページには、そう書いてあった。

 とっても楽しかった。クラッカーを鳴らしたあとにバースデーソングを歌って、コンビニで買ってきたケーキを皆で食べて……

 皆にとっての日常は、わたしにとっては非日常的で……キラキラと輝いて見えて眩しい。

 自分の字を指でなぞりながら今日の出来事を鮮明に思い出すと、ふふっと笑みが零れる。

 今日は金曜日。また、虚無の二日間が始まる。
 週末は自分の存在を消して、ただ自室で静かに過ごすだけ。

 でも、その二日間が永遠のように感じる。独りで過ごす時間というのは、なぜか何千倍にも長く思えるのだった。

 楢島さんからの依頼以外では、外に出ることが許されていないので、わたしは週末が大嫌いだ。
 普通の女子高校生なら、週末は友達や家族とワイワイ楽しい時間を過ごすんだろう。きっと、そんな週末が待ち遠しく思ってるはず……。


 あぁ、駄目だ。
 こんな事を考えていると、自分が消えてしまいそうになる。