「王子のひとりもあなたに接触しているらしいことを知りました。閣下は、その報告を受けた途端領地に戻ると言い出したのです。アイ様、あなたを王子たちから守る為にです。閣下がそう決断してから出発するまで、ほんのわずかな時間しかありませんでした。直属の精鋭たちや駐屯地に居合わせた諜報員たちは、準備が間に合わなかったのです。おれとピエールしか、閣下に同道出来ませんでした」
「アイ様。あなたはおぼえていらっしゃらないようですが、あなたは閣下と会ったことがあるのです。まだあなたや閣下が子どもの頃にです。その際、おたがいの両親が結婚の約束を取り交わしたそうです。閣下は、成長しても帝都に行くたびにあなたの様子をこっそりうかがっていたそうです。閣下は、『野獣のような容姿の年上男につきまとわれれば、彼女が迷惑だろうから』と考えたからです。このことを知っているのは、おれとパトリスだけです。アイ様。あなたが閣下と結婚してから、閣下は『彼女はどうしているだろうか』、『彼女は不自由なくすごしているだろうか』などとしょっちゅう気にしていました。それこそ、みっともないくらいにです」