「アイ、大丈夫かい?」

 肩に手が置かれた。

 その手の先を見ると、ジョフロワの心配げな表情に行き当たった。

 このときばかりは、彼のキラキラも色あせて見える。それをいうなら、この世のすべてが暗く感じられる。

「大丈夫。大丈夫です」

 彼に答えたというよりかは、自分自身に言いきかせていた。

 同時に、足が動き始めていた。

 これ以上、見たくない。フェリクスと彼の遊び相手か本気の相手かはわからないけれど、とにかくレディとのやりとりを見たくない。

 本能的に動き始めた足。

 その足を止めることはしなかった。

 エルキュールとジョフロワが名を呼んでいたかもしれないけれど、とにかく本能のままに足を動かし続けた。