「わたし、ですか?」

 なぜか流行り病のことを知っているとは言えなかった。というよりか、言いたくなかった。

「そうです。アイ、あなたの癒しと加護のと力をお借りしたいのです」
「わたしの? いいえ、ジョフロワ。わたしの力などたいしたことはありません。慈善病院の患者さんたちや屋敷内でちょっとしたケガや病におまじないをかける程度。それこそ、ただの気休めでしかありません」
「アイ、謙遜しなくていい。きみの出身であるジャックミノー伯爵家は、癒しと加護の力を受け継ぐ稀有な家系。しかも、その力は相当なものらしいじゃないか」

 エルキュールは、朝食を食べ終って口のまわりをナプキンで拭きながら会話に入ってきた。