ピエールとパトリスは心配げな表情でこちらを向いているけれど、フェリクスに呼ばれ慌てて追いかけ始めた。

 馬車道を渡り切ったとき、彼らの背は角を曲がって見えなくなっていた。

(フェリクス、誤解しているかしら?)

 やましい気持ちである反面、「おたがいさまよね」というどこか殺伐とした気持ちもある。

「アイ、いったいどうしたというのです」

 ジョフロワが追いかけてきた。

「夫がいたのです。じつは、いま戻ってきているのです」
「ラングラン将軍ですね」

 ジョフロワは、まるで知っていたかのように大きく頷いた。

 まあ、商人の情報網は相当なものである。フェリクスが戻ってきているのは、いまや領地内のだれもが知っている。だから、他国の商人とはいえ彼も知っていてもおかしくはない。

 しかし、このときなぜか違和感を抱いた。