刑事と医者が話している。
「……はい。確かに目撃者が言ってました。犯人と思われる青年が、『自分から一人で吊り橋を落ちる姿を見た』と。」
青年を担当している医者のようだ。
「目を覚ました青年はずっと言っています。」
医者は深く溜め息を吐いてから、続きを語る。
「『香織に殺された、みんな…。』と。」
刑事も溜め息を漏らす。
「捜査中ではありますが、『香織』という名の生徒は、親類知人全て調べていますが、該当する人間は見つかっていません。」
刑事の言葉を聞いて、医師は浮かない顔で返す。
「まだ検査中ですが、他の医師の見解では『統合失調症』ではないかと…。」
傍で二人の会話を聞いていた女性…『観鈴』が頷く。
「はい。時友君はよく『一人で喋っている』事がありました。そこに誰か居るかのように。…私以外は誰も気付いてなかったと思います。」
ひと呼吸置くと、観鈴は少しだけ悲しそうな顔になる。
「時友君の唯一の友達だった桐里さんが松永さん達に苛められているのを、助ける勇気が無く放置してしまっているという事が心を歪ませていったのかもしれません。」
「その事がストレスで病が進行したのでしょう。そして『香織さん』という幻影をうみだしてしまった。」
医者がメモをしながら頷いた。