何とか無事にケーキを購入して、自宅に帰ってくる頃には。

無駄にぐったりと疲れて、もう荷物の片付けをする気にはなれなかった。

お嬢さんの買い物に付き合っただけなのに、謎の疲労感。

こうやって、結局いつまで経っても俺の部屋の荷物は片付かないんだよなぁ…。

それなのに。

俺の疲労の原因を作った、当のお嬢さんは。

「悠理君。ケーキ美味しい」

今しがた買ってきたチョコケーキを、フォーク片手にもぐもぐ頬張っていた。

幸せそうで何より。

あんたはまず、学校の勉強より先に、お金の計算を学ぶべきだな。

普段から、いかにクレジットカードのみで買い物してることか。

別にクレカで買い物するな、とは言わんけどな。

今日行ったケーキ屋みたいに、世の中には現金しか取り扱ってないお店もある訳で。

そうしたら、ちゃんと自分でお金の計算しなきゃいけないんだよ。

今日は俺が一緒だったから、何とかなったけど…。

一人のときだったら、どうするつもりなんだ。

しかし、お嬢さんにはそのような危機感など、欠片も持ち合わせていないらしく。

「悠理君も食べよう。はい、こっちのケーキあげる」

そう言って、お嬢さんはザッハトルテの皿を差し出してきた。

…呑気な奴だよ。

それから。

「俺は別に良いよ。あんたが欲しいって言って買ってきたんだから、あんたが食べろよ」

夢の中でケーキ見て、食べたくなったんだろ?

遠慮せず自分で食べろ。

「でも、お金払ったのは悠理君だよ?」

そりゃまぁ、そうなんだけど。

と言っても、無月院本家から出してもらった生活費で買い物してるんだし。
 
お嬢さんの財布だろうと俺の財布だろうと、出処は一緒なんだよ。結局。

それなのに。

「それに、今日は悠理君とお買い物出来て楽しかったから。そのお礼」

「…」

「一緒にケーキ食べよう。ね?」

…分かったよ。そこまで言うなら。

「分かった。じゃあ、俺ももらうよ」

「うん。チョコケーキ美味しいよ」

俺はどっちかと言うと…チョコよりも、果物をふんだんに使ったフルーツタルトとかの方が好きなんだけどな。

まぁ、良いか。たまには。

疲れた身体に、チョコレートの甘い糖分が染み渡る気分だよ。