…さて、花見に行った翌日。

俺がこの家に越してきて、四日目のことだった。

「悠理君、おはよ〜…」

「あぁ、おはよう…」

その日の朝も、お嬢さんは比較的早めに起きてきた。

またしても眠そうに、あくびをしながら。

…案の定、また俺のジャージ姿で降りてきたよ。

着替えてから来いって、昨日言ったじゃん。

世の中には、出掛ける予定がない日は、一日中パジャマで過ごす人が一定数いるそうだが。

俺は個人的に、そういう人は好かない。

風邪引いてるときとかは、着替えられなくてもしょうがないと思うけど。

そうじゃないときは、起きたらちゃんと着替えようぜ。

寝間着は寝間着だろ?けじめってものが大切だと思うんだ。

例え、その日に外出の予定がなくても。

せめて、ルームウェアに着替えるくらいはしようぜ。

だらしないだろ。

ましてやこのお嬢さん、俺のお古のぶかぶかジャージを着ている訳で。 

おまけに寝癖も酷くて、見るに堪えないだらしなさ。

「ねぇねぇ、朝ご飯は何?わかめラーメン?」

「カップ麺じゃねぇから。今朝は普通に…トーストと目玉焼きとスープだよ」

「わーい。美味しそう」

至って普通の、何の変哲もない朝食なんだけどな。

この程度で喜ぶとは…。

いや、そんなことはどうでも良いんだよ。

「…あのな、昨日も言ったけどさ」

「あ、ジャムがある。ジャム美味しいよね。そのまま食べよー」

「こら。ちゃんとパンに塗って食べろって」

誰がティースプーンでジャムをすくって、そのまま舐めてんだ。

お行儀が悪い。お行儀が。

あんた、無月院のお嬢様だろうが。

あ、そうだ。ジャムと言えば。

「いちごジャムなんだけど、ブルーベリーの方が良かったか?」

「ううん。いちごが好きだよ」

そうか。そりゃ良かった。

色々種類あったから、どのジャムにするか結構悩んだんだよ。

自分が普段、トーストなんて食べないもんだから。

最近は、ピーナッツクリームやチョコクリーム、なんてのも売ってるんだな。

いかにも甘ったるそうで、俺はあまり好きになれなさそうだった。

「もぐもぐ。悠理君のご飯は美味しいねー」

「そりゃどうも…って、ただパン焼いただけなんだけどな…」

その程度、料理とも言えないよ。

褒めてくれるのは、素直に嬉しいけどさ。

…。

…って、そんなことはどうでも良いんだよ。