翌日。早朝。

俺は、いつもより2時間も早く目を覚ました。

「あー、眠い…」

そうでなくても、昨日は遅くまで荷造りをしていたせいで。

いつもより、ベッドに入る時間が遅かったっていうのに。

電車の中で寝てしまいそうだな。…寝過ごすぞ。

でも、朝早めに起きて、もう一回荷物の確認をしたかったんだよ。

何せ、俺が旅行に行くことを知ったのは昨日の夕方だからな。

慌ただしく荷物をまとめたから、何か忘れ物があるかもしれない。

旅行慣れしてないもんなぁ…俺。

一泊二日で、しかも近場の旅行なので助かった。

もし足りないものがあっても、最悪戻ってこようと思ったら、すぐに戻ってこられるし。

あとはもう、現地調達だな。

都会なんだし。必要なものは揃ってるだろう。

早くに起きて、荷物の確認をして、それから俺は朝食を作り始めた。

…しかし、寿々花さんが起きてこない。

あの人、今日旅行だって覚えてるよな?

早起きだねって、自分で言ってた癖に。起きてこないんだけど。

このまま放っといて、自然に起きてくるまで待とうか、と思った。

…でも、楽しみにしてたからな。旅行。

寝過ごして家を出るのが遅れた…なんて、幸先が悪いにもほどがある。

仕方ない。…起こしてやるか。

全く…何が嬉しくて、女の寝室に立ち入らなきゃいけないのか。

俺は寿々花さんの寝室に向かって、部屋の扉をノックした。

「おい、起きてるか?」

…無音。

どうやら、まだ寝てるらしい。

部屋の扉をノックしたくらいじゃ起きないだろうなぁ…。

何せ、家の中を大掃除していても、リビングのソファでぐっすり昼寝してたような人だから。

「…入るぞ」

扉を開けて、俺は寿々花さんの寝室に足を踏み入れた。

…そういえば、初めてだな。寿々花さんの寝室に入るの。

いや、一応…女性の部屋だからさ。入らないようにしてたんだよ。

入っちゃ不味いだろ?

でも、今は緊急事態だ。

「おい、起き…。って、うわっ」

寝室に一歩足を踏み入れて、俺はびっくりして固まってしまった。

…寝室なんだから、部屋の中にはベッドがあって、クローゼットや姿見があって…。

女性の寝室らしく、ドレッサーなんかも置いてあるもんだと思っていたが。

この寝室には、びっくりするほど何もなかった。

何なら、ベッドさえ置いてない。

じゃあ、寿々花さんは何処で寝てるのかって?

そんなの俺が聞きたいよ。

寿々花さんは、カーペットすら敷いていない寝室の床で。

寝袋にくるまって、すーすーと寝息を立てていた。