ヘアピンが、バラバラに壊れていた。雫の部分から石は取れ、割れてしまっている。


「そ、そんなぁ……」


 体の力が抜ける。これは私のお守りだ。私の一番大切なもの。そのヘアピンの無残(むざん)な姿を受け入れたくなかった。


 へたりこむ私の(かたわ)らに、白い犬が来る。おもむろに(きり)がかかったと思うと、白い犬は男の子の姿に変わっていた。

 人が犬になって、犬が人になってーー信じがたい光景だけど、今の私にそれを驚くほどの心の余裕はない。


「君、騒いだりしょげたり忙しい奴だな」

「だって、ヘアピンが……」

「あ? あぁ! 俺の呪いが! 壊したな!?」

「あなたのじゃなくて、私のヘアピン!」

「くれるって言っただろ!」

「呪い?はあげても、ヘアピンはあげない! 絶対に嫌!」

「……そもそも、もう壊れてるしな」

「う、うぅぅ……」


 最悪だ。


「……ヘアピン、直してください」