「だから、大丈夫だよ」


 トウマは私を数秒見て、それから、なにかが吹っ切れたかのようなすがすがしい表情に変わる。


「……だから、俺もお前のことを信じろって?」

「そ、それは……そこまでは言わないけど……トウマの自由だし……」

「ーーはっ、なんでそこで弱気なんだ。変な奴」


 トウマが笑いながら不自然に肘を曲げて、私はそのとき初めてトウマが(うし)()になにかをしていることに気がついた。パセリの神様も同じだったようで、慌てた様子でツタを振り上げる。その先端がトウマを襲おうかという、その瞬間。


「もう遅い」


 トウマが放り捨てたのは、火のついたマッチだった。思わず、悲鳴が漏れる。トウマをたしなめようとしたが、言葉が出る前に私はトウマに抱えあげられてしまった。


「逃げるぞ」

「逃げるってーー」


 いくらピンチだったからって、火をつけるなんて危険すぎる。紅ちゃんだってまだ奥にいるのに。

 私が何か言おうとしているのを察してか、トウマは先回りするように口を開く。


「大丈夫だから黙ってろ」


 トウマは私を抱えたまま、人間離れした跳躍力(ちょうやくりょく)で元来た穴から外へ飛び出した。

 外へ出る寸前に見たのは、あんなに小さかったのに、あっという間に燃え広がるマッチの火。それから、紅ちゃんが助けてと叫ぶ中、炎の中心で立ち尽くすパセリの神様だった。