そこに立っていたのは、同い年くらいの男の子だった。銀色の髪に、色素の薄い瞳。身にまとう黒いパーカーは、どう見ても制服じゃない。


「あ、足! ゴミ踏んで……ます……というか、あのーーどちら様でしょうか? ここの、生徒?」

「どちら様だと? 失礼な奴め、先に名乗れ」

「ご、ごめんなさい……阿澄、緋水(ひすい)です」

「へぇ、いい眼鏡をかけてるな」

「えっ、あ、ありがっ、ありがとう、ございます……?」


 今、()められた? 突然のことに理解が追いつかず、噛んでしまった。先生以外に容姿を褒められたのなんて、何年ぶりかわからない。

 地味な黒髪に丸い眼鏡、セーラー服の膝下までのスカート丈。ウケがいいのは先生相手だけだった。


「お世辞だとは思わないのか? いい性格をしているようだ」


 ……ああ、信じた私が悪かった。


 目の前の男の子は結局名乗ってもくれないし、なんだか少し、ひねくれ者みたいだ。それに制服も着てないし、指定の上靴も()いてない。

 ーーきっと、不良なんだ。そうに違いない。

 決めた、もう関わらないでおこう。これ以上話してもいいことなんてないはずだ。


 男の子を()けて、掃除を再開する。ちらりと横目に確認してみたが、男の子はその場から動かない。


「……あの、なにか、私に用が……?」

「ああ、あるよ。そのために来たんだ」


 男の子の不敵(ふてき)な笑みを見て、冷や汗が伝う。こんな不良少年に心当たりはない。


「君ーー呪いがかかってるよな?」

「の、呪い?」

「ああ、それも、すっごいやつ」