トウマの呼び声を遠くに感じながら、転がるように坂を滑った。最後に重い衝撃を受けて、見上げると、どうやら穴に落ちたらしい。まるで落とし穴みたいだ。坂は急で、自力で戻るのは不可能に思える。


「おい! 生きてるか!?」

「ーーうん、大丈夫!」


 私の着ているセーラー服は、半袖だ。肌が出ていたところはあちこち()りむいたけれど、大きな怪我はないみたい。


「待ってろ、今ーー」


 トウマが言いかけたとき、バチンという弾ける音と共に火花のようなものが見えた。


「なんだ、これ」

「ど、どうしたの?」

「そっちに行けない!」

「えぇっ!」

「結界か……? 他の道を探す!」

「と、トウマっ!」


 返事はなかった。もう行ってしまったのか。


「……どうしよ……」


 呟いた声は、むなしく反響する。穴の中は暗く、わずかに上から射し込む光だけが頼りだ。

 数歩、奥へと進んでみる。足がぬかるみにはまった。上履きも靴下も濡れて気持ち悪い。

 しかし、トウマが来る気配もないし、じっとしているのも気持ちが落ち着かない。だからといってこのまま進むのも、すごく怖い。

 決めかねていると、誰かに肩を叩かれた。


「ごきげんよう、人間さん」


 薄暗い中でわかったのは、肩を叩いたのはトウマじゃないこと。そして、そのーーおそらく神様は、とても優しい声色(こわいろ)だということだった。