準決勝も終わり,ぎりぎり勝ち残った俺は佐久間煌芽の前で,その存在を知らないとでも言うような顔を保ちながら礼をした。
とーかちゃんは,まだ戻ってこない。
汗を拭って,メンバーを見る。
準決勝が思ったよりも拮抗し走り回ったせいで,どいつも皆息が荒い。
もう半分満足しているようなもので,集中力もあまり期待できなかった。
無理をさせ過ぎたと反省する。
それでもと走れば,ボールは佐久間煌芽の手に渡った。
佐久間煌芽の顔を,初めて至近距離の正面から見つめる。
ボールではなく顔を見られていることに,気付いた佐久間煌芽はちらりと視線を寄越した。
ダンダンとボールを響かせながら,目の前で細く息を吐く佐久間煌芽。
まだ余裕がありそうだと,眺める。
とーかちゃんが,佐久間煌芽を選んだ理由。
どの角度から見ても分からない。
だけど,そう。
分からなくったっていい。
俺が,全部で上回って,とーかちゃんの1番大きな存在になればいい。
その肝心のとーかちゃんが,今はいないみたいだけど。
もうずっと,とーかちゃんが戻ってこない。
もう戻ってこないつもりかもしれないし,最悪何かあったのかもしれない。
そう考えれば考える程,そちらに焦ってしまった。
目の前の相手が,佐久間煌芽が先に動く。
俺はそれに合わせて動き,体を捻った。



