ーー有馬響sideーー
ごきゅごきゅと水分を取るチームメイトの横で,1口だけ含む。
はあと口を離して見上げると,何故か離れていくとーかちゃんの背中が見えた。
……見ててって,応援しててって言ったのに。
なのに優菜は置いて,どこに行っちゃったんだろう。
俺は,午後になってようやく明らかになったリーグ対戦表を見た。
まあ,セーフってことにしてあげよう。
佐久間煌芽チームとの対戦は次の次───決勝戦だから。
佐久間煌芽のチームの実力や体力残量,後半戦と次の対戦チームを見ても,きっと勝ち上がって来る。
俺はそこで,絶対に勝ちたい。
他人目には珍しく,俺はやる気を出していた。
けどやっぱ,1日中はきちーかな~。
んーと両手を伸ばす。
そうも,言ってらんないけど。
……うん,そうも,言ってられない。
今日何度目かの高音に,俺は壁から背を離した。
今はいいけど。
ちゃんと戻ってきてね,とーかちゃん。
その背中を追いかけたい気持ちを押し殺して,前を見据える。
背中じゃなくて,ころころ変わる素直で可愛い表情をみたいと思った。
でも,今はだめ。
我慢するとき。
「有馬なんで今日そんなマジなの? 練習のときもそんなじゃなかったくね?? まぁ,楽しいからいいけどよっ! っと」
余裕さえ感じる表情は,確かに楽しげに輝いている。
横から突然俺の世界を覗き込んだその顔に,隠すこともないと俺はチームメイトに向けて薄く笑った。
「死ぬほどカッコ,つけてやろーと思って」
「はー? 俺お前のそういうとこ……羨ましいわ」



