「だから,そんなこ……っと。ねぇ,なにしてんの? いい加減キレるよ」
焦り,その次に冷たい怒り。
一瞬にして変わった声色に,私は思わずぴゅっと顔を出す。
そこには,直ぐ傍にあった長机へ手をつき,手のひらを相手に向ける響くんの姿と……
響くんの手のひらに顔をくっつける女の人の姿があった。
響くんが,相手からの"キス"を拒んだことに,少なからず安堵してしまう。
前は話を聞いても,あんなに沢山の女の人に詰め寄られる響くんを見ても,何とも思わなかったのに。
当たり前のような2人の距離に,胸がざわついた。
泣きそうなくらい,ざわざわとうるさい。
「っもー!!!!! 知らないっ,響なんかだいっきらい! 右足折って左足ちぎってスピード違反の車にピーーーれればいいんだからっ!!!!!」
「いやクセが強い」
冷静にじゃーねと別れを告げる響くんと,涙声で悔しそうに走り去る女子生徒。
今響くんに会うのは嫌だと,私は響くんがいなくなって更に時間が経つまで。
呼吸ひとつうまくすることは出来なかった。
なのに,その後談笑する佐久間くんと優菜を見ても。
まあ,そうだよね,と。
学校の生活時間に会っていても,不思議ではないよねと。
ただ納得する気持ちだけだったことに,私はきっと誰よりも驚いた。
前はあんなに悲しかったのに,もう,そんなの忘れてしまったかのように。
ただそこにある現実なのだと,私にはどこか他人事に思えた。



