「ーっ」
何かものすごくたくさん文句を言ってやりたいのに,何も出てこなくて。
もごつく口元を,きゅっとむすぶ。
そんな私の右手の指先を,響くんはそっと掴まえた。
黙って見つめ合うこと,数秒。
今度は私のお尻で,ぶぶっと振動がする。
スカートに入れたスマホだと,佐久間くんからだと直ぐに分かった。
戸惑いに,私は響くんを覗き込むように窺う。
響くんは口を開いて,その時。
通知のバイブは,着信の音に変わった。
急かすようなその音に,気持ちが焦る。
「あっあの,響……」
「行かないでよ,とーかちゃん」
行かないでよ,と。
確かに響くんは口にした。
私の目を,じっと真っ直ぐに見て。
着信なんて気にしない,2人の世界に引き摺り込もうとしてくる瞳。
掴まれた指先が,ピクリと動く。



