「今日時間ある?」



他の人には聞こえない声。

お互い自分の席へと歩き出した所で,私はじわりと見開く。



「今日は……ちょっと」



眉が素直に下がりながら,小さく呟いた。

それだけで全て察してしまったように,響くんは言う。



「そっか」



どこか残念で,引き留めて撤回してしまいたくなりながらも。

私は離れていくその背中に,声をかけることは出来なかった。