「おはよ,とーかちゃん」



遅くも早くもない時間に,私と同じく教室に着いた響くんは後ろから私に声をかけた。

その姿を見上げ,普通だ,と,私はこくりと飲み込む。

慣れているからだと,私は無理矢理納得した。

思えば,ファーストキスだったんだよなと,今思い出しても頭が沸騰しそうになる。

そう,問題は響くんではなく私。

どうして受け入れてしまったんだろう。

どうして嫌だと思えなかったんだろう。

その後繋いだ手の感触も,寂しくなる程覚えていた。



「誕生日おめでと」



おはようって返す前に,そんな言葉を貰ってしまって。

どうしていいか分からなくなった私は,小さくうつ向きげにはにかんだ。



「どう? 俺が1番だったでしょ」



来る時間がいつもより早い。

そう思っていた,わざわざ声をかけてきたその理由は,まさかのそれ。

佐久間くんよりも,優菜よりも。

直接渡す1番の人。

どこかどやりとした声色に,私は笑った。



「おはよう,響……くん。ありがとう,ございます……。でもね,1番はお母さんだったよ」



うっかり人前で呼び捨てにしそうになりながらも,私はそんなことを言ってみる。

照れ隠しだった。

だけど,照れは隠せても嬉しさは隠せなくて。

つい頬が緩むのを,私は両手で抑えた。