一歩佐久間くんが私に近づく。
佐久間くんの"本音"が痛かった私は,そっと伏せた。
近寄る佐久間くんの足先を見て,どっくんと心臓が鳴る。
何……?
そう思っていると,今度は頭で警鐘が鳴った。
顔を,あげてはいけない。
気付いたことを,気付かせてはいけない。
「ご,ごめん佐久間くん! 私大事なもの忘れてきちゃった!」
「え,桃花?! 大丈夫?」
「うんっ! 大丈夫! でも今日いるものだから,取りに行かなくちゃっ!」
それでももう20分も歩いてる。
だから佐久間くんは帰っていいよって。
私はそう,いつもの笑顔を佐久間くんに向けた。
すきだよ。
あんなに嬉しかった言葉が,今は涙に溶ける。



