「ありがとう」
これ,響くんに貰ったんだよって。
そんな罪悪感に,私は右耳を包んだ。
私達は歩き出す。
隣に立つ佐久間くんの横顔や,私の見上げる角度が懐かしくて。
そんなことを思っているうちに,佐久間くんが私の手に触れた。
あ,と予感に驚いていると。
佐久間くんが大きくて硬い手のひらで私の手を包んだ。
大きいのと小さいの,バランスは悪いのに,何だかとても恥ずかしくなる。
「はははっ。桃花,まだ慣れないの?」
ーもうすぐ1年も経つのに。
記念日とか疎そうなのに,佐久間くんはそんなことを言った。
慣れない,慣れないよ。
嬉しかったし,恥ずかしいし。
最後に繋いだのだって結構前でしょ?
どくん,どくんって。
胸の真ん中で音がして。
戸惑った私はぎゅっと目をつむる。



