「ふいうち」

「え……?」

「とーかちゃんさ,意外とそーいうとこあるよねえ」



ぎゅむぎゅむと囲まれて,苦しい。

何か隠しているような,空回っているとぼけた口調。

片目を開いて響を見ると,その耳がほんのり赤くて。

このハグからは嬉しそうな雰囲気を感じる。

急に大人しくなった私を,響は離した。



「このままどこか2人でいちゃいちゃしようって言ったら,怒る? とーかちゃん」

「怒らない。でも,困っちゃうかも」

「えー」



怒らない。

もう遅くなっちゃうし,凄くこまる。



「でも」

「でも?」

「今度,デート,したい」



放課後でいい。

本当にちょっとだけ,何か一緒に出来たら。



「そう言ったら,響,怒る?」



それとも困る?



「……おこらない。でもキスする」



私の唇を,響が掠め取る。

反射速度の遅さはそのまま響への特別な無防備さそのもので。

寧ろ待っていると言われても,突然キスをされても。

私は文句も言えない。



「帰ろっか,とーかちゃん」