婚約破棄されたので、好きにすることにした。

 夜会という正式な場で、アリーシャが紹介する前にそんなことを言ったカサンドラに、注目が集まる。けれどそんな視線さえ顧みず、カサンドラはエーリヒに詰め寄る。
「勝手にいなくなるなんて。私から逃げられると……」
 そうまくしたてるカサンドラに、エーリヒはクロエですらぞっとするほど冷たい視線を向ける。
「……エーリヒ?」
 さすがの王女も、殺気すら感じるような鋭さで一瞥されて、怯えたように後退した。
 魔女の力を有していても、彼女自身はか弱い王女でしかない。
 呆然とした様子で名前を呼ぶ声にはまったく答えず、エーリヒはクロエに向き直った。
「行こうか」
「う、うん」
 愛しさを隠そうともしない、柔らかな笑みを向けられて、見慣れているはずのクロエでさえ、動揺してしまう。
「エーリヒ? どうして、そんな顔で……」
 それが信じられない様子で、呆然と呟いている。
 差し出されたエーリヒの手を握りながら、クロエは王女の方は見ないようにして、会場の内部に移動した。
 国王の指示なのか、近衛騎士が駆け寄ってきて、放心したままの王女を連れ出していく。我に返って暴走する前に、移動させたのだろう。