婚約破棄されたので、好きにすることにした。

「俺も少し、緊張している。こんな夜会に正式に参加するのは初めてだ。でもクロエと一緒なら、きっと大丈夫だ」
「……うん。私も」
 互いにしっかりと手を握り合って、気持ちを落ち着かせた。
 そろそろ出番だろう。
 会場中の人たちが注目する中、クロエはエーリヒのエスコートで、夜会の会場に足を踏み入れた。
(ああ、キリフ殿下もいるようね)
 あの日、美しい恋人を腕に抱きながら、クロエを蔑んだ元婚約者は、今夜はひとりのようだ。
(あの令嬢はどうしたのかしら?)
 周囲を見渡してみても、それらしき人はいないようだ。
 キリフが以前よりも髪をさらに短くしているのは、もしかしたらクロエの魔法の影響かもしれない。
 父であるメルティガル侯爵もいる。
 エーリヒを見て苦々しい顔をしているが、娘であるクロエに気付いた様子はない。
 そして。
「エーリヒ?」
 可愛らしい女性の声がした。
 顔を向けると、豪奢なドレスを着たカサンドラが、エーリヒを見て駆け寄ってきた。
「今までどこにいたの? その女は何?」