婚約破棄されたので、好きにすることにした。

 アリーシャが説得しようとしても、聞く耳も持たなかったのだろう。
 隣の客間に移動すると、エーリヒがソファに横たわっていた。
 クロエはすぐに駆け寄り、彼に怪我がないことを確認して、ほっと息を吐く。
(よかった……)
 アリーシャが、戦闘になる前に連れ去ってくれたからだ。
 そっと頬に触れると、それが引き金になったかのように、エーリヒは目を覚ました。
 状況をまだ理解していなかったのか、ややぼんやりとしている様子だったが、クロエを見つめた途端、その瞳に力が宿る。
「クロエ」
「エーリヒ。無事でよかった」
 手を引かれ、逆らわずに身を任せる。
「ここは……」
「マードレット公爵邸よ」
 答えたのは、部屋の入り口でこちらの様子を伺っていたアリーシャだった。
 途端にエーリヒは殺気立ち、抱きしめていたクロエを庇うように背後に庇う。
 その殺気を受けて、トリッドがアリーシャの前に立つ。
 緊迫した雰囲気に、クロエは慌てて声をかけた。
「エーリヒ、大丈夫だから」
 彼にしてみれば、知らないうちに貴族の邸宅に連れてこられたのだ。
 警戒するのも無理はない。
「だが……」